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著者・監修:片桐はじめ(公認心理師・臨床心理士)

ストレスチェック後の産業医面談の案内を添えて結果を返しても、手が挙がらない。
案内文を書き換え、周知を重ねても申し出が増えない事業場は少なくありません。
厚生労働省の調査では、面接指導を申し出る高ストレス者の割合が5%未満の事業場が76.8%を占めています。
一方、高ストレス者は受検者の5〜20%を占める事業場が大半です。
対象者がいないわけではなく、申し出につながりにくい現状があります。
※ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて(厚生労働省)を編集して作成
面談に申し出ない人が、自身の状態に気づいていないわけではありません。
眠りが浅い、朝が重い、以前より仕事が進まない。その変化は本人が先に気づいています。
決まっていないのは、それを会社にどう持ち込むかです。
本来、産業医のなかには優れた相談スキルや傾聴の技術を持つ人が数多く存在します。
しかし、従業員から見ると、産業医面談は「評価や判断の場」に映りがちです。
面接指導はその結果をもとに事業者が就業上の措置を検討する仕組みで、医師が意見を述べることが前提にあります。
制度上の役割と「医師」という名称が重なることで、身構えてしまうのです。
身構えの中身は2つあります。
ひとつは「何を話せばいいか分からない」という不安です。
休むのか、続けるのか、業務を減らすのか、自身がどうしたいのかを決めていない段階では、何から整理して伝えればよいのか分かりません。
「そもそも不調の原因が自分でも分からない、うまく言語化できない」というケースもあるでしょう。
もうひとつは「評価に響くのが怖い」という警戒です。
厚生労働省の調査でも、面接指導を希望すると高ストレス者であることが事業者に明らかになる懸念から申し出ない労働者も多い、と推測されています。
※ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて(厚生労働省)を編集して作成
産業医以外に気軽に相談できる窓口があれば、面談申し出のハードルは大きく下がります。
ストレスチェック指針でも、産業医が単独で高ストレス者の対応を抱えるのではなく、多職種で連携体制を組むことを求められています。
産業医等と連携しつつ、保健師、歯科医師、看護師若しくは精神保健福祉士又は公認心理師、産業カウンセラー若しくは臨床心理士等の心理職が相談対応を行う体制を整備することが望ましい。
引用:心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針 (厚生労働省)
この体制整備の目的は、産業医面談の手前で迷っている人を放置せず、適切なサポートにつなぐことです。
もちろん、これは産業医の面談業務の負担を減らしたり、企業の面接指導義務を免れたりするためのものではありません。
申出があれば産業医による面接指導を行う義務は変わらず、この他職種の窓口がその代わりになるわけではないからです。
では、それぞれの窓口はどのように使い分ければよいのでしょうか。
3つの職種は、それぞれ次のような役割を担います。
| 産業医 | 保健師 | 心理士 | |
| アプローチ | 医学的視点に基づき
「会社での働き方」を判断 |
生活面・業務面の
「フォローと橋渡し」 |
心理的分析と
感情の整理 |
| 事業者への勧告権 | あり | なし | なし |
| 相談内容の例 | ・休職や残業制限、業務軽減などの措置
・主治医の診断書を踏まえた働き方の調整 |
・「なんとなく不調」の段階での整理
・生活リズムや日々のセルフケア
・産業医面談を受けるべきかどうかの事前相談 |
・人間関係やキャリアに関する不安
・自分の気持ちを言語化できていない段階
・休職や復職にあたっての気持ちの整理 |
保健師は、不調が表れる前の段階から、治療中の人の健康相談まで幅広く対応します。
強みは、健診の数値や勤怠データ、睡眠や飲酒の変化から、症状として表れる前の兆しを読み取ることです。
不調を未然に防ぐ「予防」の視点で人やデータを見るからこそ、早い段階で変化に気づくことができます。
心理士が担うのは見立てです。
困りごとに名前をつけて終わりにするのではなく、その人にいま何が起きているのかを組み立てます。
同じ「眠れない」でも、何がその不調を長引かせているのかは人によって違います。
そこが言葉になると、職場として何を変えられるのかが見えてきます。
産業医・保健師・心理士も不調の予防から回復までの支援を担いますが、面談の入口としてどこが最適かは、相談したい内容によって変わります。
実際に、高ストレス者への案内に心理士との面談枠を加えたことで、それまで手が挙がらなかった層から申し出が増えた事業場もあります。
産業医面談は希望しないが、カウンセリングであれば受けたい、という選び方です。
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では、心理士面談ではどのような対話が行われ、社員の意識や行動にどう影響を与えるのでしょうか。
ここでは心理士面談ならではのアプローチとその具体的な内容にスポットを当てます。
心理士が見立てるとき、出来事を以下の3つの角度から見ます。
ここでは、理解を深めるための架空の事例をもとに考えてみます。
| Aさんは20代後半、入社6年目の総合職。
業務は一通りこなせるようになり、評価も悪くない。 業務量が特別多いわけでもないのに高ストレス判定が出た。
面談は「特に何かあったわけではないんですけど」という言葉から始まった。 |
Aさんは現在の生活状況について以下のように話しました。
『夜、布団に入ってから「このままでいいのか」と考え始める。答えは出ないので、考えるのをやめて眠ろうとする。休日は朝から予定を入れ、考える時間ができないようにしている。それでも月曜の朝は疲れが残っている』
ここで起きているのは、答えの出ない問いを先送りし続けることで、休む時間そのものが消えていく循環です。
負荷がかかっているのは業務量ではなく、考えないための行動のほうです。
残業を減らしても、この回り方は止まりません。
予定を入れない日を意図的に作ることと、考える場を別に用意することが、悪循環をなくす対処になります。
上司との関係については、『最近、難しい案件が回ってこなくなりました。信頼されているのかもしれないし、もう期待されていないのかもしれない』と話しました。
上司には、期待を下げた意図があったかどうかはわかりません。
安定して任せられる人だから難しい案件を外した、という判断もありえます。
ところがAさんは、それが確かめられないまま止まっています。
こうした互いの期待がずれている状態に対しては、1on1などの安全な場でお互いの期待やニーズを言語化して話し合うことが必要でしょう。
例えば、上司からAさんに次に期待している役割を伝えてもらったり、Aさん自身のキャリアに対する不安を言葉にして話し合ったりするアプローチです。
直近の変化について、Aさんは『同期の1人が転職し、もう1人が結婚した。私自身も、少し前に同居を始めたところ』だといいます。
20代後半から30代にかけては、仕事を覚える段階を終え、この仕事を続けるのかを考え直す時期です。
結婚や転職などの人生における大切な出来事は、起きる順番もタイミングも人によってばらばらで、同世代を見ても比べる相手がいません。
例えば、同期が子育てを始めていても自分は独身、同期は転職2回目でも自分は新卒から同じ会社。
同世代を見ても、自分が遅れているのかを測る相手がいません。
この揺れは「クォーターライフ・クライシス」と呼ばれることもあり、個人の不調ではなく、多くの人が通る課題として扱うのが適切です。同世代でキャリアを話す場や、社内にどんな道があるかを知る機会が求められます。
上記のケースでは、産業医によっては「所見なし、業務量も適正、休職の必要もない」という結論に至ることがあります。
制度としては正しい判断ですが、本人にとっては「異常なし」と言われて終わることを意味します。
しんどさは残っているのに、それを指す言葉が手に入りません。
心理士との面談では、別のことが起きます。
本人にとっての価値は、自分が感じているしんどさに説明がつくことと、そのうちどれを職場に頼めばよいかが整理されることです。
「上司や人事に話しても何も変わらない」とあきらめていた人でも、職場に調整を頼む部分と自分で扱う部分を切り分けられるようになります。
人事にとって大事なのは、この違いを知っておくことです。
案内や勧奨で伝えられる内容が変わります。
ただ「相談できます」ではなく、「整理がつく」「必要なサポートが何かわかる」と案内をすることで、申し出るかどうかを迷っている人の判断材料になります。

面談を受けるにあたって、「会社に知られたり、勝手に報告されたりするのではないか」と不安に思う人も少なくありません。
しかし、産業医・保健師・心理士にはいずれも厳格な守秘義務があり、本人の同意なしに相談内容が企業へ伝わることはありません。
むしろ面談の内容によっては、企業に報告を行わなくても十分に意味があります。
対話を通じて「自分の状態が整理された」「何にストレスがかかっているのかが分かって気持ちが楽になった」と本人が感じられれば、それだけで面談の役割を果たしているからです。
そのうえで、職場環境を変えられることがあるなら、「何をどこまで会社に伝えるか」を本人と専門職が一緒に相談しながら決めていきます。
何を変えれば楽になるのかが本人に見えていても、業務量や配置は本人だけでは動かせないからです。
ここで初めて、面談での気づきが具体的な職場環境改善へとつながります。
厚生労働省の実施マニュアルに載っている規程例でも、面接指導以外の相談窓口については、相談内容を相談者の同意なく会社に提供しないことが定められています。
裏を返せば、本人の同意があれば職場に伝えられる前提で書かれているということです。
※小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル(厚生労働省)を編集して作成
人事が受け取るべきものは、個人の詳細な相談内容ではなく、環境改善に向けた「打ち手」です。
専門職からのフィードバックの形式や頻度、専門職同士で連携する基準などを事前に決めておくことが大切です。
| 高ストレスと判定された方は、申し出により産業医の面接指導を受けられます。
申出により不利益な取扱いを受けることはありません。 |
相談先が1つしかなく、申し出た後に何が起きるかが書かれていません。
「不利益はない」という表現が、かえって不安を意識させるきっかけになる場合があります。
| 高ストレスと判定された方は、申し出により産業医の面接指導を受けられます。
また、保健師や心理士とのカウンセリングや面談も実施しています。
心理士との面談では、まず状況の整理から始めます。 職場に伝えたほうがよいことがあれば、何をどこまで伝えるかをご本人と決めたうえでお伝えします。
ご相談内容や申し出の秘密は厳守されます。また、面談の申し出によって勤務評価や処遇等で不利益を被ることは一切ございませんので、安心してご相談ください。 |
高ストレス者と判定された人が、産業医面談以外の選択肢があることを示し、目的に応じて使い分けられるように勧奨することが大切です。
ここまでは高ストレス者への対応を扱ってきましたが、面談対象を広げている事業場もあります。
厚生労働省の事例集には、高ストレス者に限らず個別支援が望ましい労働者を独自の基準で選び、保健師・心理士・管理栄養士といった産業保健スタッフから積極的にチャットを送ってフォローしたところ、全社約850人のうち月平均20人程度がチャット相談を活用するようになった、という報告があります。
※ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて(厚生労働省)を編集して作成
ここでのポイントは2つです。申出を待たずに専門職の側から声をかけること、そして対象を高ストレス者に限定しないことです。
この2つを加えると、ストレスチェックは年に一度の判定で終わらず、日常的な相談のきっかけになります。
申出がないという状態は、対象者がいないことを意味しません。決めきれずにいる人が、決めないまま相談できる場所を探しています。
人事・労務担当者がストレスチェックの事後措置を強化するためのアプローチは3つです。
1.入口の拡充:就業上の決断を求めない相談先(保健師や心理士など)を、産業医面談と並べて提示すること。
2.案内文の刷新:専門職ごとの選択肢と選ぶ基準、そして守秘義務を含む「情報の流れ」をあらかじめ明記すること。
3.運用の整備:相談内容そのものではなく「職場改善の打ち手」が届くよう、情報共有の範囲と連携の基準をルール化しておくこと。
追うべき指標も「面接指導の申出率」から「専門職につながった高ストレス者の割合」へと変わります。
面談の手前で止まっている人を放置せず、適切な支援へ導くセーフティネットの構築が求められています。
株式会社エムステージでは、産業医・保健師・心理職とオンラインで面談ができる「Sanpo保健室」を提供しています。
選任の専門職がいない企業でも、必要な時に必要な分だけ、最短2営業日でスピーディーに面談の設定が可能です。
ストレスチェックの事後措置にお悩みの方はぜひご相談ください。
片桐はじめ
公認心理師・臨床心理士
精神科病院、心療内科クリニックの心理職として、精神疾患を抱える方や働く人のカウンセリングや心理療法等に従事。
現職の経験を活かし、メンタルヘルス・産業保健領域でのWebライター、インタビューライターとして活動中。
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