キリスト教精神に基づき、青少年の健全な育成や地域社会への貢献を目的とした活動を多角的に展開する公益財団法人神戸YMCA。
今回は、田治様と岩井様に、YMCAのこれまでの歩みと、職員の健康管理や組織作りについて詳しくお話を伺いました。
| 田治様:1989年入職。予備校での学生指導や保護者面談、英会話・野外活動の運営などを経て、現在は法人本部にて総務人事労務を中心に、安全衛生業務を担当。 岩井様:1993年入職。健康教育やウエルネス事業を中心に、高齢者支援の事業立ち上げに約15年携わる。幼稚園業務を経て、現在は保育園園長として乳幼児の教育・保育に従事。 |
地域の声に寄り添う活動の秘訣は「ボトムアップ型組織」

「神戸YMCA」では、どのような活動をされているのでしょうか。
岩井様:YMCAは、青少年育成・ウエルネス・学校教育・国際交流・子育て支援など、幅広い事業や活動を行っています。ウエルネス事業では、フィットネスクラブやスイミング、野外活動などを通じて、乳幼児から高齢者までの健康増進を支援しています。教育事業では、語学教育や専門学校、高等学院を運営し、専門人材の育成と生涯学習の機会を提供します。
加えて、幼稚園や保育園、学童保育の運営のほか、発達障がい児・者への支援など、地域社会のセーフティーネットとして、保育・福祉の活動にも注力しています。
教育・保育から国際交流まで、非常に幅広く活動されているのですね。
岩井様:そうですね。多方面で事業を拡大している背景には、「トップダウンではなく、現場の職員が地域や会員の皆様の声に耳を傾けることから事業をスタートする」という、ボトムアップの姿勢があります。
YMCAの活動は、常に社会のニーズと現場の声に応える形で生まれてきました。
たとえば、かつての「共働き家庭の増加」という社会課題に応えるため、今から約55年前に『かぎっこクラブ』という活動を開始しました。そこから徐々に「学童保育」における社会的な役割と使命を帯びるようになり、現在の事業へと発展してきたという背景があります。
田治様:1994年に西宮で始まった発達障がいのある子どもたちの支援プログラムも、発達障がいをもつ子どもの親御さん達から寄せられた声から始まったものです。
30年経った今では、プログラムの卒業生がYMCAのイベントに手伝いとして顔を出してくれることも多く、非常に嬉しく思っています。
また、現在はその役割を終えましたが、ホームヘルパーを目指す養成講座を開いた際には、受講生から「資格取得の入口はあっても、出口となる実践の場はないんですか?」という声を受け、訪問介護やデイサービスなどの介護事業をスタートしました。
こうした「当事者の想いに応える」という姿勢が、私たちの活動を支える基盤となっています。
他者貢献のためには「ケアする側のケア」も必要。使命感の強さゆえに直面する課題

職員の方が抱えがちなフィジカル面の健康課題について教えてください。
田治様:学校保育の現場では、子どもたちの予測できない動きによる接触や転倒、スポーツ中の事故など、業務中の突発的なケガが少なくありません。
一方でフィットネスなどスポーツ関係の部署では「自分たちが見本になる」という意識のもと、普段から健康管理に気をつけている職員が多数います。
メンタル面の課題についてはいかがでしょうか。
岩井様:私たちの活動の根底には、相手の人生に寄り添う「伴走支援」という考え方があり、職員は地域や利用者の方の成長に強い使命感を持っています。しかし、その「他者のために」という思いが、時として自分自身のケアに割く時間やエネルギーを上回ってしまうこともあります。
社会や支援対象者の課題が多様化・複雑化する中で、職員は時間やルールだけでは区切れないホスピタリティを求められる場面も出てきます。だからこそ、組織として職員の心身の健康を支える「ケアする側のケア」が必要だと感じています。
不調者が発生した場合、どのように対応されているのでしょうか。
田治様:まず現場責任者が面談などの初期対応を行い、同時に法人本部へも連絡が入る流れが基本的な対応です。本部と現場で情報共有しつつ、連携して対応しています。
ただし、多様な職種の方が働いていますので、対応はケースバイケースです。講師・インストラクターの場合は、より身近な現場の責任者が中心となって対応し、管理職の不調の場合は本部が主導になるなど、柔軟に対応しています。
また、休職から復職までの流れをまとめたハンドブックを作成しました。「しっかり休んでください」というメッセージとともに、復職に向けた今後の流れを説明するようにしています。
手探りの対応から「根拠のある一手」へ。産業医の助言で現場が納得して進めるように
エムステージの産業医紹介サービスを導入された背景について教えてください。
田治様:前任の産業医が健康上の理由で辞任することになり、後任の先生を探していました。
YMCAの事業は多岐にわたるため、複雑な健康・安全上のリスクに対応できる豊富な知見をもつ先生が必要であると判断し、エムステージに依頼しました。
たとえば、YMCAの施設は子どもから高齢者までたくさんの人が出入りするため、職員がさまざまな健康リスクに接する可能性があります。過去に、専門的な知識が必要な事案が発生した際、現場では医学的な背景に対する正しい知識を持つ職員が少なく、対応に混乱が生じたことがありました。
その際、産業医に相談し、「なぜその対応が必要なのか」という医学的な根拠を添えて助言をいただいたことで、職員も深く納得して対応に従えました。この一件を機に、職員にとって産業医が非常に身近な存在になったと感じています。
ストレスチェックツール『Co-Labo』の導入で産業医との連携がスムーズに
『Co-Labo』を導入された経緯や、導入以前の課題を教えてください。
田治様:以前利用していたストレスチェックのサービスでは、実施後のフォローが十分でなかったり、事後処理が手作業で煩雑かつコストも高かったりと、いくつか課題がありました。
そのため産業医の導入を機に、ストレスチェックもエムステージのサービスへの切り替えを検討しました。ストレスチェックの結果やフォロー体制について、産業医と連携がしやすいのではという期待が大きかったです。
導入後はどのような変化がありましたか?
田治様:もともとストレスチェックに関心が高い職員が多く、受検率は良かったのですが、Co-Labo導入前に一時期落ち込んでいた受検率がほぼ100%まで回復しました。
受検結果をすぐに産業医と共有し、専門的な見解を迅速に得られるので、実施事務担当者として非常に助かっています。産業医から「こうしたらいいのでは」という具体的な助言をすぐにもらえるので、それを組織にどう活かすかを考えるきっかけになっています。
多様性を受け入れ、組織の力へ。神戸YMCAが目指す「ポジティブネット」

今後の産業保健活動や、組織としての展望を教えてください。
岩井様:社会の変化が加速する中で、世代や価値観の違いは職員同士でも当然生まれてきます。しかし、違いが悪いことではなく、互いを認め合いながら尊重することが大切だと考えています。
YMCAには、自分がしてほしいことを他者に伝え、互いに認め合い、共に成長していく「ポジティブネット」というビジョンがあります。善意や前向きな気持ちによってつながるネットワークで、誰もが豊かになれる社会を目指す考え方です。
そのため、社内の教育研修では単に知識を学ぶだけでなく、自分の意見や思いをきちんと伝え、互いの考えを尊重し合う「人間関係トレーニング」を実施しています。
他者を支援するためには、まず職員自身の心が満たされている必要があります。職員一人ひとりが研修で培った姿勢を活かし、互いに認められ、豊かさを感じること。そのような内側の充実が、結果として地域や子どもたちへのより良い活動につながっていくと信じています。
私たち自身も「伴走支援」を行っていますが、産業医の先生方も、私たちの専門外である領域から、活動を支援し、伴走してくださる重要なパートナーです。今後もサポートいただきながら、「ポジティブネット」の実現に向け、よりよい組織づくりを進めていきたいと考えています。