世界67の国と地域へ、55の言語で13,000プロジェクト以上のローカライズやコンテンツを手がける株式会社アクティブゲーミングメディア。従業員の約4割が日本以外の国にルーツをもつという同社は、コロナ禍をきっかけに世界的なエンターテインメントコンテンツのニーズをうけて、事業拡大に伴い従業員数が急増しています。
多様な人材の活躍を実現するために同社が取り組む産業保健活動について、人事総務部の森様にお話をうかがいました。
| 森様:市役所の人事として福利厚生、労務管理などの業務を約10年ご経験された後、NPO法人のキャリアアドバイザーとして若年層向けの転職支援に従事。 2023年より株式会社アクティブゲーミングメディアに入社。人事総務部人事担当マネージャーとして、採用後の労務管理、ハラスメント相談窓口、衛生委員会関連業務などを担当されている。 |
加速する社内の多様性と、コミュニケーションの希薄化
外国籍の方が多い貴社ならではの課題はありますか?
さまざまなバックボーンをもつ従業員が在籍しているので、文化や習慣の違いを感じることは日常茶飯事です。
たとえば、宗教上の理由で一日に何回か祈祷をする従業員がいるのですが、周囲から見ると、祈祷をしているのか、考え事をしているのかが分かりません。そのため、デスクに「お祈り中」というメモを貼ってもらい、終わるまでは話しかけないようにするなどルールを決めて対応する場合もあります。
ここ数年は、コロナ禍でのいわゆる「おうち需要」の影響からか、エンターテイメントコンテンツ全般のニーズが高まったと言われており、弊社も事業拡大のため近年は従業員数が急増した背景があります。
国籍だけでなく、様々な言語、専門性、バックグラウンドを持った従業員の受け入れをすすめた結果、一部では個が孤立し、従業員同士のコミュニケーションが希薄化しているのではないかと感じられる場面に遭遇することも多くなりました。
祈祷中のルールのように、文化や価値観の違いを従業員同士が理解しあい受け入れる雰囲気が育まれている弊社だからこそ、一部ではお互いのことを気にかけない、干渉しない、という状態になっているように感じています。
隣のデスクの人が今何をしているのか、そもそも今日は出社をしているのか休暇を取っているのかなど、周囲の状況を把握できていないケースが散見されるようになりました。
人事担当としては、従業員同士のコミュニケーションについて、何か気づいたことがあればなるべく声かけをするようにしています。話しかけた相手から「この会話が今日の唯一の会話です」と言われるようなこともありました。
従業員同士の関係性が悪いということは決してなく、会話が始まれば明るくフレンドリーな人が多い職場環境です。しかし、周囲の多様さを尊重するあまり、コミュニケーションの機会が減るということに、もどかしさがあります。
さまざまな国籍の従業員がいる中で、どのような働き方があるのでしょうか?
大阪と東京のオフィスでの勤務が原則で、基本的には9時半または10時からの8時間勤務です。
一部、カスタマーサポートの業務は24時間365日の体制で対応していたり、メディア運営の部署は世界中の新作ゲームコンテンツの発表に対応するため、裁量労働制で働き、サイトを運営するなど、業務の特性に応じて様々な形で勤務する従業員が在籍しています。
結果として、部署間の連携が少なく、同じチームであっても顔を合わせて作業をする機会がない等の状況が生まれていると感じています。
「誰に相談すれば良いかわからない」人事の面談対応がパンク状態に
メンタル面とフィジカル面、それぞれ貴社の健康課題を教えてください。
メンタル面では、仕事やプライベートで困りごとがあっても「誰に相談していいか分からない」と抱え込む従業員が多い傾向があります。
これは従業員のルーツに関わらず当てはまる特徴だと捉えていますが、当社は比較的内向的で自身の世界を確立しているタイプの従業員が多い職場だと思います。
上司や同僚、友人など、周囲に気軽に相談できる環境が少ないためなのか、何か困ったことがあると人事や総務にまず相談しにくる従業員がとても多いです。従業員が相談をしやすい雰囲気を醸成できているという状況は喜ばしい反面、一時期は、面談対応が追いつかず相談対応業務だけでパンク状態に陥りそうになったことがありました。
また、フィジカル面もタフではない従業員が多い印象です。ケガをしやすかったり、急遽体調不良に陥ってしまったりと健康管理についての意識が十分でなく、自身の身体がどこまで無理が利くのかを自分で判断できていないのではないかと感じる場面が多々あります。
そのため、「休んだ方がいいのか」「病院に行った方がいいのか」などの判断を一次的に人事が対応する必要があるという構図が生じていました。
社会人経験が浅く、日本での就労環境が初めてというメンバーも多い中、社内の教育研修体制が十分でない点も課題だと考えています。
『Sanpo保健室』の活用によって、センシティブな相談も専門性のある判断ができるようになった
専門職によるオンライン面談サービス『Sanpo保健室』を利用することになった決め手を教えてください。
人事面談の対応がパンクしそうな中、従業員のプライバシーに関するセンシティブな相談がたまたま集中したタイミングがありました。私たち人事や産業医が話を聞くことはできても、個別のセンシティブな案件についてすぐに適切なアドバイスをすることは難しく、専門的な知見がある外部の相談窓口につながなければいけないと考えていました。
過去に他社の外部相談窓口を利用していた時期はあったようですが、その時は誰がどのような相談をしているのか利用状況が分からず、効果測定が全くできていませんでした。
そのようなタイミングで、エムステージからSanpo保健室を提案されて、利用を決めました。
『Sanpo保健室』を導入するに当たって社内で懸念した点などはありましたか?
Sanpo保健室を提案されたとき、私個人としては「まさに求めていたサービスだ」と思い、すぐに役員会に提案し、結果として1~2週間程で導入に至りました。
社内の風土として、「従業員一人ひとりが均一ではない」という多様性の理解の感覚を持っていることもあってか、ありがたいことに役員の承認を得るまでのプロセスは比較的スムーズだったと記憶しています。普段特別に意識しているわけではないですが、多様な従業員を抱えている弊社だからこそ、個の特性を受け入れ、調整し、活かすことこそが会社の役割だという風土があります。
ただ、その調整を考える際の判断基準が、私のような人事担当者の意見だけでは限界があると日頃から強く感じていました。心理カウンセラーや産業保健などの知見を持った専門職の方の意見を聞く重要性を、身をもって体感していたので、導入の際の役員会の提案にも熱を込めてプレゼンできたのではないか、と考えています。
『Sanpo保健室』を利用して良かったと思う点を教えてください。
一番良かった点は、従業員への対応や配慮について、専門職からの見立てが面談報告書として共有されるところです。場合によっては相談者の上長へ、機密情報に配慮しながら面談報告書を共有するケースもあるのですが、今後の対応方針の決定だけでなく、日々の声掛けレベルでも専門職のアドバイスを参考にすることが多いです。
また、従業員が何かトラブルを抱えている場合、従業員自身から見えている事実や状況と、上司・同僚・人事などそれぞれの立場によって「見えている事実」が異なる場合があります。面談報告書があることで、それぞれの立場から認識のすり合わせをし、複合的な視点で問題を捉えることができると感じています。
以前利用していた他社の外部相談窓口では、従業員自身が面談をして終わりになってしまっていましたが、相談者が話を聞いてもらうだけでなく、会社としてどのようなサポートをすれば良いのかまで導いてくれるので、人事としては本当に助かっています。
森様ご自身も『Sanpo保健室』の面談を受けられたようですが、感想を教えてください。
心理職の方のカウンセリングを受けたのですが、人の話を「聞く」また「聞いてもらう」ことの重要性や効果を、身をもって感じました。前職の経験から、カウンセリングの重要性を理解している方だとは思っていたのですが、実際に自分が受けてみることで、改めて実感できました。
カウンセリングの最後に、心理職の方が「カウンセリングはドライブみたいなものですね」と表現したことが印象に残っています。
どのような話をするのかという大まかな目的地は決まっていても、その時々の対話の内容や、自身の反応などで毎回到着する場所が変わり、「問題の解決策」という目的地に到着することだけが目的ではなく、「話している途中の景色を味わう」ことがドライブのようだと仰っており、前職で自分が話を聞いている立場だった時も、その通りだったなと感じました。
普段は人と話さないテーマに関して、初めて言語化できた感覚が楽しかったです。
従業員のヘルスリテラシー向上を目指したい
産業保健活動において、今後の展望を教えてください
従業員の健康への意識を改善させていきたいです。現状ではありがたいことに病気を抱えている方や、メンタル不調で就業が難しいというケースが多いわけではないですが、働くうえで自身の健康管理が重要な課題になるということを普段から意識付けできるように、声かけをしていこうと考えています。そのために社内で出来ることは限られているので、外部のサービスもどんどん利用していきたいです。
メンタル面に関しては、まずはストレスチェック等のセルフケアに注力したいと考えています。自身のメンタル状態について無頓着な状態をまずは克服することで、他者のメンタル状態にも目が向くきっかけになるのではないかと考えています。
また、メンタル面だけでなく、フィジカル面での健康維持施策も取り入れたいです。健康診断の結果を産業医に診ていただいた際に「運動不足の従業員が多いのではないか」と指摘されたことがあり、確かにスポーツを趣味とする従業員が少ないように感じています。
今後は福利厚生の一貫でスポーツ大会や山登り、ラジオ体操など、なんでもいいので多くの従業員が身体を動かすような機会を作るきっかけが企画できればと考えています。
産業保健活動というのは、何か1つ実施したら全てが解決するということはないと思っているので、さまざまな施策を実施してみて、弊社のような多様な従業員がいる職場環境にあった体制を築き、就労環境や健康状態が少しずつでも改善できるといいと考えています。