アンケート

「医師の働き方改革」の進捗と健康経営の取り組み状況について医療機関へアンケート調査を実施

事業場向け産業保健支援、医療人材総合サービスを行う株式会社エムステージ(東京都品川区、代表取締役:杉田雄二)は、2024年4月の施行まで残り1年半となった「医師の働き方改革」の進捗と健康経営の取り組み状況について医療機関へのアンケート調査を実施しました。(調査期間:2022/9/7~2022/9/13)

<調査背景>
医師の働き方改革は、「時間外労働の上限規制」を中心に「面接指導、連続勤務時間制限、勤務間インターバル規制等の実施」などの健康確保措置によって、医師の生命・健康を守り、医療の質向上にもつなげるという大きな意義があります。そのため今回は、「医師の働き方改革」全体の取り組み状況と合わせて、医療機関における健康経営の取り組みについて調査を行いました。
2024年度は医師の働き方改革だけでなく、診療報酬・介護報酬の同時改定も控えており、大きな変化に向けた早めの準備が重要となります。

<調査結果のサマリー>

  • 「医師の働き方改革」への準備が、順調に進んでいる医療機関は約2割
  • 6割の医療機関が「院内の勤務医師」を産業医として選任。今後は院外産業医の活用の広がりも
  • 働き方改革および健康管理で最も難しいのは「従業員への教育/研修」。意識改革が急務
  • 働き方改革および健康管理の取り組みが進むも、法定業務で実施が出来ていないものも存在
  • 「医師の働き方改革」の先に、従業員のメンタルヘルスケアも見据えて、積極的な活動を

調査結果

1.「医師の働き方改革」への準備が、順調に進んでいる医療機関は約2割

医師の働き方改革への準備状況について質問したところ、「順調に進んでいる」20.8%、「やや進んでいる」37.5%、「あまり進んでいない」35.8%、「全く進んでいない」5.8%となりました。約6割の医療機関において取り組みが進んでいますが、順調と回答した医療機関は約2割となりました。

約1年前の2021年8月に当社が実施した医療機関への働き方改革アンケート*¹では、「準備が進んでいる」と回答した医療機関は66%で、うち36%が「順調に進んでいる」と回答しました。「順調」の回答割合が減少している要因としては、働き方改革に着手できていなかった医療機関の取り組み開始、働き方改革に必要な取り組みの周知が広まる中で追加の対応に取り組む医療機関の増加、22年度の診療報酬改定や新型コロナ対応といった他業務による遅れ、などが考えられます。
一方で「全く進んでいない」と回答した医療機関は14%から5.8%へ減少しており、殆どの医療機関で取り組みをスタートしていることが分かりました。

*¹ 「医師の働き方改革」の進捗について医療機関へアンケート調査(2021/8) 

2.36協定を締結していない医療機関が1割弱存在

36協定とは、「時間外・休日労働に関する協定届」です。法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて勤務する場合は、必ず36協定の締結と労働基準監督署への届け出が必要となります。

36協定を締結しているかについて質問したところ、「締結している」92.5%、「未締結」6.7%、「分からない」0.8%となりました。殆どの医療機関が締結しているものの、未締結の医療機関も1割弱あることが分かりました。

3.長時間労働者の面接指導は、半数以上で「院内の勤務医師」が実施。「院外産業医」は約2割

月100時間超の時間外・休日労働を行う労働者は、産業医等による長時間労働の面接指導を受ける必要があります。過労により健康リスクが高まった労働者の状況を把握し、必要な指導を行います。

長時間労働医師への面接指導の実施状況について質問したところ「産業医資格を持つ院内の勤務医師」での実施・実施予定が合わせて52.5%、「院外の産業医」で実施・実施予定が合わせて21.6%となりました。産業医資格を持つ院内の勤務医師で実施・実施予定の医療機関が半数以上となりましたが、院内医師の場合は、職場の同僚という立場でもあるため、お互いに指導がしにくい・相談が気まずい、といった理由で積極的な活動につながりにくい課題があります。

働き方改革・健康経営が先行する一般企業では、現在、産業医の交代が進んでいます。近くのクリニックや健診施設、知り合いの医師に頼んでいた産業医を、自社の社員が相談しやすい産業医や自社の課題に合わせた専門性の高い産業医に変更することで、意義ある活動に結びつけるための動きです。医療機関においても、今後、面接等の具体的な産業医業務の実施が増えていく中で、高い専門性を持った外部産業医の活用が求められていくと考えられます。

4.ストレスチェックは結果の活用に課題

ストレスチェックは従業員50名以上の事業場において、実施の義務があります。

ストレスチェックの実施状況について質問したところ、「実施しており、結果も活用できている」56.6%、「実施しているが、結果の活用はできていない」37.5%、となりました。

厚生労働省の令和3年「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、ストレスチェックを実施している事業所は全事業所規模では65.2%、実施義務のある50名以上の事業所では95.6%が実施しています。また、ストレスチェックを実施している事業所のうち結果の活用をしている事業所は全事業所で79.9%、ストレスチェックの実施義務がある50名以上の事業所では81.6%となっています。

今回の調査では、実施義務のない従業員規模の医療機関も含みながら、94.1%がストレスチェックを実施していると回答しました。一方で、ストレスチェックを実施している医療機関のうち、結果の活用が出来ている医療機関は約6割と、全体的な平均値と比較して大きく下がる結果となりました。実施はしているものの、その後の職場改善につなげられていないということが分かりました。

5.高ストレス者面談では、半数以上で「院内の勤務医師」が実施するが「院外の産業医」も4割弱

ストレスチェックの結果「高ストレス者」と判定された労働者から申し出があった場合、産業医等の医師による面接指導を実施する必要があります。

高ストレス者への産業医面談の実施状況について質問したところ、「産業医資格を持つ院内の勤務医師」での実施・実施予定が合わせて55%、「院外の産業医」で実施・実施予定が合わせて36.7%となりました。

長時間労働者の面談同様に、院内の勤務医師で実施・実施予定である医療機関が半数以上となりましたが、こちらも面談の希望がしづらいという課題があります。高ストレス者の面談は、労働者からの申し出により実施されるため、労働者が相談しやすい体制であることが肝要です。院外の産業医での実施・実施予定が4割弱と、長時間労働の面接指導に比べて多いことから、積極的な実施を目指す医療機関では院外医師の検討が進んでいると考えられます。スポットで面談のみの産業医を選任し、院内・院外の産業医を活動によって使い分けされているケースも考えられます。

6.6割の医療機関が「院内の勤務医師」を産業医として選任。今後は院外産業医の活用の広がりも

従業員50名以上の事業場においては、産業医の選任義務があります。

産業医の選任状況について質問したところ、「院内の産業医資格を持つ医師を選任」60.9%、「院外の産業医を選任」35.8%となりました。院内の産業医、院外の産業医を合わせると、96.7%が産業医を選任しており、選任義務のない事業場規模の医療機関も含めて、おおむね殆どの医療機関が産業医を選任出来ていることが分かりました。また、産業医を選任している医療機関96.7%のうち、院内の産業医資格を持つ医師を選任している医療機関は6割となりました。

応召義務や当直のある勤務形態、中小規模の事業場が多く労務管理や労働法の専門家が配置されづらいなど、医療機関における労働衛生の対応への難易度は一般企業に比べても高いものとなります。
さらに、医療専門職である医師に対する指導やドクターストップなどの判断にも、豊富な労働衛生や法令の知識が求められるため、高い専門性を持った産業医の選任が求められます。院内に医師がいるからではなく、自院の課題に合った専門性の高い産業医を選任し、選任後の意義ある活動の実現も考えていく必要があります。
また、医師の労働時間削減のためには、タスクシフト/シェアが重要な取り組みのひとつとなりますが、求められる対応が増えている産業医業務においても、院内の勤務医師から専門の産業医へタスクシフトすることで勤務医師の負担緩和につなげることができます。

7.問2~6の中で実施できていない項目がある場合、実施できない理由についての自由記述

◆面談実施の難しさ
・医師同士の面談を敬遠されがち。(病院(B水準予定)、300~499名)
・医師が多忙なため面談時間が取れない。(病院(A水準予定)、500~999名)
・必要性の認識不足(共有不足)。(病院(水準はまだ未定)、300~499名)
・各人のストレス解決の手段が難しい。業務以外の要因もあるので、面談してもなかなか明確なアドバイスができない。ストレスを感じる度合いも個人で違うので、対応に苦慮することもある。(病院(水準はまだ未定)、~99名)

◆対象者・希望者がいない
・長時間勤務に該当する医師がいない(病院(C水準予定)、500~999名/他複数)
・体制はできているが、実施する状況になっていない。(病院(A水準予定)、100~299名)
・長期間勤務の常勤医師がいないので、面談などの方向性は定まっていない。(病院(A水準予定)、100~299名)
・面談希望者がいない。(病院(水準はまだ未定)、~99名/他複数)

◆その他
・法人としての対応が決まっていない。(病院(水準はまだ未定)、100~299名/他複数)
・他業務で忙しく、対応が難しい。(病院(A水準予定)、300~499名)
・手間とお金がかかるため。(病院(水準はまだ未定)、100~299名)
・小病院はなかなか対応すること自体困難。(病院(A水準予定)、100~299名)

8.働き方改革および健康管理の取り組みが進むも、法定業務で実施が出来ていないものも存在

上記で質問したストレスチェックや産業医選任等以外に、その他、働き方改革や従業員の健康管理について実施しているものを質問したところ、TOP3は1位「衛生委員会の実施」、2位「ハラスメント相談窓口の設置」、3位「勤怠管理システムの導入」となりました。

厚生労働省によると、精神障害の労災支給決定件数に占める精神障害発症の原因となった具体的な出来事として、ハラスメントに関するものが最も多くなっています。さらに精神障害の労災請求件数・支給決定件数は、どちらも業種(大分類)別で「医療、福祉」業の件数が最も多くなっており、医療業界におけるハラスメント対策は非常に重要な課題となっています。調査結果からは、ハラスメント対策に対して、医療機関の意識が高まっていることが分かりました。

一方で、従業員50名以上の事業場において求められている衛生委員会の実施や、産業医による月1回(所定の条件により2か月に1回)の職場巡視などにおいては、義務であることを考えるとどちらも低い実施率であることが分かりました。

9.働き方改革および健康管理で最も難しいのは「従業員への教育/研修」。意識改革が急務

働き方改革および従業員の健康管理を進める上で難しいと感じていることについて質問したところ、TOP3は1位「従業員に対する教育/研修の実施」35%、2位「連続勤務時間の制限」25%、3位「勤務間インターバル9時間の確保」25%となりました。

今回の働き方改革の中心となる、労働時間の措置に関する回答が上位を占めましたが、「従業員に関する教育/研修の実施」が最も大きな課題であるということが分かりました。
自由記述回答では、“面談を促しても受けてくれない” 、“必要性の認識不足”、“医師同士の面談を敬遠されがち“、”トップの考えが古い“などの意見があることから、長時間労働を抑制する様々な施策を導入するものの、従業員の意識改革が最も難しいと感じている医療機関が多いと考えられます。

10.働き方改革および従業員の健康課題解決への取り組みについての自由記述

◆従業員の意識改革
・経営は問題ないが、部署トップの考え方が古すぎたり、勝手すぎることが一番の問題。(病院(A水準予定)、100~299名)
・従業員向けのハラスメント研修には今後力を入れたい。(病院(A水準予定)、300~499名)
・ストレスチェック結果の高ストレス者に自覚がなく、複数回面接の促しをしても受けてくれない。(病院(水準はまだ未定)、100~299名)

◆時間外労働の上限規制の課題
・医師が少ない地方病院は、かかりつけ医の機能も持ち合わせつつ救急外来を担っており、インターバル勤務、連続勤務の制限等を厳守すると現在の医療が提供できなくなる。(病院(A水準予定)、100~299名)
・拘束時間のみで考えることには違和感がある。(病院(水準はまだ未定)、1000名以上)
・医療崩壊を招く可能性が高い。(病院(水準はまだ未定)、500~999名)
・中小規模の医療機関が24時間365日稼働する中で、働き方改革を進めることに限界がある。一部の役職者においては、定時で始業・終業は現実的に困難。(病院(C水準予定)、100~299名)
・勤務時間と研修の切り分けが難しい。(病院(A水準予定)、500~999名)
・働き方改革や従業員の健康課題の解決は重要なものであると考えておりますが、実施するためには増員が必要となる場合もあるため、それを担保する方策も一緒に国から提示してほしい。(病院(水準はまだ未定)、100~299名)

◆宿日直・休日の対応について
・医師の働き方改革に伴う、労働基準監督署への宿日直許可申請がなかなか難しいと聞く。審査基準が厳しく、断念する医療機関もあると聞きます。当院はやっと許可が取れた。(病院(水準はまだ未定)、~99名)
・医師の宿日直許可を取得する取り組みを始めた。(病院(A水準予定)、100~299名)
・日当直は保健所への届出により勤務扱いとならないが、現状は未届のため連続勤務とみなされる可能性があり、不安である。(  病院(A水準予定)、~99名)
・週休日および祝日等の出張医による当直に課題がある。(病院(A水準予定)、100~299名)

◆制度の全体像理解の難しさ
・全体像をあまり把握できていない。研修も受けたことはあるがしっかりと理解できていない。(病院(A水準予定)、100~299名)

◆職員の健康課題の増加
・コロナ禍によるメンタル低下により、病休の方も多くなっている。(病院(A水準予定)、300~499名)

◆その他
・なるべく状況把握には努めるが、把握できないことも多い。(病院(A水準予定)、100~299名)
・当法人においては、医師の過重労働は従来より見当たらない。(病院(A水準予定)、300~499名)
・概ね順調に取り組みができている。(病院(A水準予定)、300~499名)

総括:働き方改革と重要性を増す健康経営への取り組み

2019年4月より働き方改革が施行されている一般企業では、現在、長時間労働の削減等の取り組みを経て、従業員のメンタルへルス不調をいかに予防するかという点に取り組みの重点が移ってきています。医療人材不足による過重労働、命と向き合う24時間体制の勤務形態や、医師・多職種・患者さん等の全方位的に複雑な人間関係など、医療従事者の就業環境はメンタルへルス不調を引き起こしやすい環境でもあります。

今後は医療機関においても、「医師の働き方改革」により長時間労働の削減からメンタルへルスケアに取り組みが進んでいくと考えられますので、個人と組織のパフォーマンス向上に寄与する健康経営についてもしっかりと準備をしていく必要があります。

<解説者>
株式会社エムステージ 産業保健事業部長
歌代 敦 (うたしろ あつし)
25年以上に渡り、健康・医療・メンタルヘルス分野でのコンサルティングに従事し、医療機関や企業の健康経営の推進に携わっている。

■エムステージの産業保健メディア『サンポナビ』について
エムステージの運営する産業保健ニュースメディア「サンポナビ」では、企業の健康経営事例や医師・研究者・弁護士等の専門家インタビューを通じ、人事労務・産業保健・健康経営に取り組む際のヒントとなる情報を発信しています。

■エムステージの『産業保健トータルサポート』について 
産業医紹介・選任後の業務サポートをはじめ、ストレスチェック『Co-Labo』、産業保健師サービス、EAP外部相談窓口、メンタルヘルス・ハラスメント研修、専門家相談サービス等で、企業の健康経営を総合的に支援しています。

<アンケート調査概要> 
アンケート実施日:2022/9/7~2022/9/13
有効回答 :120院
対象   :全国の医療機関
回答方法 :WEBアンケート調査
回答者属性:

※引用・転載時には「株式会社エムステージ」と弊社クレジットを明記下さい。


株式会社エムステージについて
「すべては、持続可能な医療の未来をつくるために」をビジョンに、事業場向け産業保健サービスと医療従事者のキャリア支援・医療機関向け採用支援を提供しています。

<会社概要>
商 号:株式会社エムステージ
代表者:代表取締役 杉田 雄二
設 立:2003 年 5 月
所在地:〒141-6005 東京都品川区大崎 2-1-1 ThinkPark Tower5 階
事業内容:事業場向け産業保健支援、医療人材総合サービス

プレスリリースに関するお問い合わせ先
株式会社エムステージホールディングス  広報:武田
TEL: 03-6867-1170/MAIL: t.takeda@mstage-corp.jp

【プレスリリース】働き方改革および健康経営についての医療機関アンケート